富士市立高校のSDGs 2021年2月9日OA
富士市立高校 永井厚史先生
高校3年生 桑原健太さん
学校のご紹介をお願いします
(永井先生)富士市立高等学校は、吉原商業高等学校を母体とし、校訓「考えよ」、教育目標「自律する若者 ~未見の我を探そう~ 」の下、平成23年の学校創立50周年を機に、新時代に対応すべく、新たな3つの教育理念「コミュニティーハイスクール」「ドリカムハイスクール」「探究ハイスクール」をコンセプトに、総合探究科、ビジネス探究科、スポーツ探究科の3学科でスタートし、今年で10年目になります。現在の生徒数は698名。 通常の教科の授業に加え、探究学習や各学科で行われる研修などを通じて、新しい時代を生き抜く力を身につけることを目指しています。
「SDGs」学習として行っている「実践例」を教えてください
(永井先生)学校全体としての取り組みは2つあります。 ともに2年次に実践します。
1つ目が「市役所プラン」で、生徒がグループで、富士市の抱える魅力や課題を発見し、地域活性化につながるプランを考え提案します。
2つ目が「テーマ探究」で、自分の興味関心があることのなかから、SDGsの17の目標にかかわりのあるものを選び、その事項について探究を行い、プレゼンテーションをします。
SDGsの17の目標のうち、この学習はどれにあたるとお考えですか?
(永井先生)「市役所プラン」は、主に11番の「住み続けられるまちづくりを」に該当すると思います。提案内容によってはその他の目標に該当することもあります。「テーマ探究」では、個々の生徒がテーマを設定しますので、1~17まで、それぞれの目標に該当する探究が上がってきます。
「市役所プラン」はどのように実施するのですか?
(永井先生)高校2年の4月から9月にかけて行っている活動です。例年、生徒がグループを作り、市内の各地区でのフィールドワークを通じて地域の魅力や課題を発見し、解決案を考え、「各地区に提案する」というスタイルで実施してきました。しかし、本年度は新型コロナウイルスの流行によりフィールドワークが実施できなかったため、「福祉・高齢化」「教育・育児」「防災」など11のテーマからグループごとテーマを選び、富士市の課題を発見して、その解決案を「富士市に提案する」スタイルで実施しました。 7月の中間発表後、プランを修正し、9月にアドバイザーの静岡大学の先生方や、生徒が選んだテーマに関連する部署で働いている市役所の職員の方々などの前で最終発表を行いました。
どのような提案が上がってきましたか?
(永井先生)本年度の60チームの提案から2つ紹介します。
1つ目は、11のテーマから「観光」を選んだチームの提案です。富士市の課題として、「観光客が他の街に比べて少ない」ことに注目し、お土産の力で人を集められないか?と考え、静岡の特産物を使った商品、PR映像制作を企画しました。具体的には、「田子の月」様の「富士山頂」というお菓子に新しい味の3商品セットを提案し、そのPR映像制作をするというものです。この企画は「田子の月」様に届き、現在「田子の月」様と生徒のコラボで商品開発と映像制作が進行しており、2月20日に発売予定となっています。
2つ目は、「健康・スポーツ」というテーマを選んだチームの提案です。このチームは、コロナ禍における富士市内のスポーツジムの休業などにより運動不足の方が増加している状況を改善して、富士市民の健康増進につなげたいという思いから、 「家でできるリモート富士市体操」を提案しました。具体的には、自分達で幼児・小学生を対象とした体操を考え、教育委員会に提案して幼稚園、学校で実施してもらう。体操の動画を撮影して、富士ニュースや広報ふじにQRコードを掲載してもらい、各家庭で実施してもらうというものです。残念ながらこちらは実現には至りませんでしたが、自分たちで体操を考え、映像の撮影まで行いました。
「テーマ探究」はどのような活動ですか?
(永井先生)高校2年の10月~2月にかけて行っている活動です。生徒一人ひとりが自分の興味のあることについて、SDGsとの関わりを見つけて探究テーマを設定し、そのテーマについて探究を行い、レポートを作成し、プレゼンテーションソフトを使って発表をするという活動です。テーマは自分の進路に関連のあるものから、純粋に興味・関心があることについてまで多岐にわたっています。
採用されるテーマとして、SDGsの17の目標のうち、どれが多かったですか?
(永井先生)「教育」や「ジェンダー」が多かったです。「教育」については、「高校を義務教育にするべきだ」「日本は道徳教育を変えるべきだ」、「ジェンダー」については「同性婚が認められないのは日本人の幸せの定義があるため」、「トイレを男女の2つで分けるのは正しいのか」など興味深いテーマ設定をした生徒がいました。
学びを深めた学生のお1人、高校3年生の桑原健太さんにお聞きします。
「市役所プラン」はどのようなテーマを採用しましたか?
(桑原さん)私たちのグループは吉永北地区で地域の小学生を対象に食育教室の開催を提案しました。富士市でとれた食材を使った郷土料理を地域の方と小学生が一緒に作るというもので、意識した点は、食育として地産地消と郷土料理の継承、地位活性化の観点では、地域内交流の促進です。 企画を通じて、小学生に地域の魅力を知ってもらい、企画全体の交流が活性化したらという狙いがありました。 小学生を対象にしたのは、小さい頃から地域の行事に参加し、興味を持ってもらい、地域の一員として将来の地区を担ってほしい思いからです。
「探究学習発表会」では、地域の方や、大学の関係者の方にも聞いていただきました。さらに、学年から選ばれたグループは代表として全校生徒に発表をします。毎年、クオリティの高いものが発表されています。 私の班は、「静岡県グローバル課題研究ポスターセッション大会」という校外の大会でも他校の学生や先生方に発表をしました。私の中では、かなり貴重な体験だと思っています。地域を巻き込んで、かなり大きな規模で行うものですので、多くのことを経験できます。地域の様々な立場の方々とお話したり、パワーポイントなどを使った資料作成など、将来に役立つような経験が積めます。実際に大学入試に利用されることもあります。難しい点は、計画を、開催までにもっていくまでが難しいということです。私たちの班はスケジュールなどの都合で開催できなかったのですが、ほかのグループでは計画を実行している班も多くあります。今年度は、田子の月とコラボして、富士山頂のアレンジ商品を開発したりしているようです。授業が終わっても活動が続くのが特徴ともいえるかもしれません。
「テーマ探究」はどのような活動をしましたか?
(桑原さん)SDGsの8番の「働きがいも経済成長も」に関連して、「転職は自分のキャリア形成において有用なのか?」というテーマを設定しました。 終身雇用制の崩壊による転職需要の高まりにより、転職者数は年々増加傾向です。転職のリスクとメリットを転職経験者の方にインタビューをし、厚労省や総務省のデータをもとに考察しました。おそらく、このテーマで悩んでいる社会人の方はたくさんいると思います。私が社会に出たときにこの傾向がどうなっていくかわかりませんが、 これから将来的に社会に出ていく身としては、人生で大きな割合を占める仕事というものを、転職という観点でとらえられたことはいい経験になったと思います。 正直、当時の探究内容に納得いってないので、いつか個人的にリトライしたいなと思います。
SDGs学習を通じて、生徒に期待することなど展望をお願いします。
生徒たちはSDGsについての認識を深める過程で見出した課題を探究することで、社会問題や自分の将来について視野を広げることができたように思います。今後は、持続可能な社会を実現するためには、何をしなければならないのか、自分にどんなことができるのかを考え、社会の一員としての意識を持ち、より良い社会を作るために行動してもらいたいと思います。
(インタビュー 2021年2月9日)